慶應義塾大学病院 形成外科学教室 慶應義塾大学病院 形成外科学教室

巨大色素性母斑
(きょだいしきそせいぼはん)

巨大色素性母斑は、有毛性母斑、獣皮様母斑などと呼ばれています。巨大色素性母斑は大人になった段階で直径20cm以上というのが一般的です。しかし臨床上直径20cm以上と20cm未満で治療方法が急に切り替わるわけではありません。いわゆる黒子(ほくろ)も同じ母斑細胞からなります。組織上、母斑細胞が存在する部位により、junctional type, intradermal type, compound type, に分類されます。巨大色素性母斑は遺伝しないとされています。

巨大色素性母斑を診察する時に注意しなければいけない点は、中枢神経系にも同じような細胞がいないかどうか確認することです。中枢神経系に同様の病変があれば神経皮膚黒色症と呼ばれて、中枢神経の症状が出ないかどうかを注意深く観察する必要があります。この診断にはMRIが有用です。

巨大色素性母斑でもう一つ注意をしなければいけないことは、色素性母斑は悪性黒色腫を含めた悪性腫瘍ができやすくなるという点です。悪性腫瘍は悪性黒色腫が広く知られていますが、他に有棘細胞癌なども発生します。巨大色素性母斑の悪性黒色腫の発生頻度については4.5%から10%と大きなばらつきがあります。これまで巨大色素性母斑の治療には、後述するさまざまな治療法が行われていますが、手術やレーザー照射といった刺激を加えたために、悪性化が進行したという報告はなく、いずれの治療も母斑細胞数を減少させるので、悪性化の発生を抑えると考えられています。

治療

巨大色素性母斑の治療法は、母斑組織の黒い色調を周囲の色調に合わせ、正常な皮膚の質感に近づけるといった整容的な面と、悪性化のリスクを少なくするといった双方の面から考慮し、決定することになります。深部まで組織を採取すればするほど、母斑細胞の数は減少させることができ、悪性化のリスクは減少すると考えられます。一方で、真皮、脂肪組織を含めた深部まで切除した際には、見た目が悪くなってしまうこと多いです。
これまで色素性母斑の治療には、分割切除、組織拡張器により皮膚を進展させた後の皮膚縫縮、植皮術、キュレッテージ、レーザー治療などが報告されています。

分割切除術、組織拡張器の使用、植皮術

悪性化の予防のためには発生母地となる病変部の皮膚の全切除が良いと思われます。このため、大きさがそれほど大きくない色素性母斑では、分割切除や組織拡張器などの方法を駆使し、切除して1本の縫合線として治すのが整容的には最も満足のゆくものになると思われます。しかし、過剰な切除・縫縮は長期的に骨格の成長に影響を及ぼすという意見もあり、縫合できるからといって幼少期に無理に皮膚を切除しすぎるのは避けたほうが良いと考えられます。
これらの方法を用いても縫合できないほどの大きさの色素性母斑に対しては、植皮手術が用いられることがあります。これは皮膚をすべて置き換える方法ですが、皮膚を取ってくる場所にも傷ができてしまうという欠点があります。

キュレッテージ

巨大色素性母斑の組織には、器械を使って引っ掻くと自然に剥がれる層が皮膚の上方に存在します。全身麻酔下に器械を用いて病変部を掻爬すると、この色素を含んだ皮膚の浅層が剥がれてきます。この方法をキュレッテージといいます。キュレッテージ後の皮膚の中には毛根が残存しますので、植皮をすることなく、約2週間で自然に傷が治ります。キュレッテージは手術的に簡単な方法ですが、ほとんどの色調が軽減する症例が存在する反面、黒色の色調が取れるものの灰色の色調が残存する症例、まったく効果がない症例、色調が一度は軽快するが早期に再発する症例など、反応がさまざまです。色調が減少するものの、正常な皮膚の質感にまでは、至らないので、顔や手など露出部には不適です。また、色素性母斑は、真皮より深く脂肪組織や、筋肉中隔にまで母斑細胞が存在する症例も多々あり、このような例にはキュレッテージはできません。

レーザー治療

母斑・血管腫に対してレーザー光線をあてて、表面から細胞を焼灼します。
母斑・血管腫の種類や個人による状態の違いにより、良く取れるものと、取れないものあります。取れるものに関しては、手術による傷跡を残さないので、整容的に優れていますが、回数と時間と費用が多くかかります。
費用を軽減する目的で1996年より一部の疾患に対するレーザー治療の健康保険が適応になりましたが、健康保険を適応できるのは最初の1回のみで、2回目以降の治療は自費治療となります。
健康保険の適応となる疾患は、下記の通りです。

巨大色素性母斑のレーザー治療には、これまでルビーレーザー、 Qスイッチルビーレーザー、Er:YAGレーザー、CO2レーザーと、これらレーザーのいくつかの組み合わせが報告されていて、それぞれ一長一短があります。いずれも一度の治療ではうまく色が取れないことが多いので、複数回の治療を必要とします。母斑細胞が皮膚の深くにまで至っている場合は、レーザー治療では色調は取れませんので、切除手術や植皮手術が必要になります。

一方で、Qスイッチルビーレーザーは、もとの性質から、周囲組織の熱変性を最小限に抑えるという特徴があります。このため、何度照射しても、瘢痕は最小限に抑えられます。慶應病院では、出生後早期から2週から4週間隔で繰り返し使用することで、露出部の色素性母斑に対して良好な結果を得ることに成功しています。

慶應病院での取り組み

色素性母斑の場所、大きさにより以上お示ししたさまざまな方法をご提示し、治療方法を相談させていただいております。
担当:貴志和生

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© 2019 Department of Plastic and Reconstructive Surgery, Keio University School of Medicine