悪性腫瘍切除後再建-慶應義塾大学病院形成外科

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悪性腫瘍切除後再建

再建手術とは

生来、人の体は、生きていく上で必要なもので構成されています。外傷(ケガ)や病気(癌など)で体が傷ついた際、体表の小さな傷や小さな欠損であれば、自分の自然治癒力で修復されますが、大きな傷や大きな欠損になると、自分の自然治癒力では修復しきれません。そこで、自然治癒力による修復が難しい場合に、手術による修復が必要になります。このように、外傷や病気などで損なわれた外観や機能を取り戻すための手術を、医学的に「再建手術」といいます。

再建手術の基本は,損なわれた場所や機能にあった組織の移植(補充)です。基本的には、近隣の組織を移動することで補う場合(有茎皮弁形成術)と、離れた部位から一旦組織を切り離して移植する場合(遊離皮弁形成術)があります。その際の組織は、患者さんご自身の身体から、欠損部に適した組織(皮膚、筋肉、骨など)を採取して利用しますが、当院では、採取による障害が最小限になるような部位を選択して利用しています。

有茎皮弁形成術:組織が損なわれた部位に、近隣の組織を切り離さずに移動してきて、組織欠損を補います。

遊離皮弁形成術:組織が損なわれた部位に、離れた場所から組織を切り離して採取し、組織欠損を補います。この際、切り離した組織を栄養する血流の確保が必要なため、移植先の血管と移植組織の血管を吻合する必要があります。この血管の直径は、約1〜3mmで、熟練した形成外科医が、顕微鏡を用いて血管吻合を行います。

また、医療技術の進歩により、医療用人工材料を選択して利用する場合があります。例えば、骨の代用として、金属(多くはチタン)製プレートや人工骨(ハイドロキシアパタイトなど)が利用される場合があります。最近では、手術の負担を軽減するために、耳、鼻、眼などの形状を、特殊メイクを施したシリコンで作成し、これを損なわれた部位に打ったスクリューを介して取り付ける技術も開発されています。

部位別再建手術

代表的な再建部位と再建方法を列挙します。実際には、患者さんの年齢や体力、今までの治療歴を考慮し、欠損の状態や今後の治療について、耳鼻咽喉科や歯科口腔外科の主治医の先生方と協議した上で、最終的に患者さんと相談して決定します。

眼窩部

眼球およびその周囲の軟部組織や骨などを整容的に再建します。有茎皮弁として、前額皮弁・眼瞼皮弁・側頭筋弁などがあり、組織欠損が大きい場合には、遊離皮弁として、腹直筋皮弁などが用いられます。皮弁と合わせて、義眼床用の粘膜移植や、骨欠損への骨移植など、様々に組合せて再建をします。また前述の特殊なシリコンで作成した装具を用いることもあります。

上顎部

主に整容的な再建をしますが、術後に義歯を装用できるような再建が必要です。小欠損は有茎皮弁で再建しますが、多くの場合は欠損が大きく、遊離皮弁による再建をします。上顎の腫瘍では、粘膜・皮膚だけでなく、それを支える骨組織も再建しなくてはなりません。上顎骨の再建には、骨の血流を確保したまま骨移植することが有利ですので、遊離広背筋皮弁では肋骨や肩甲骨の一部、遊離腹直筋皮弁には肋骨の一部、その他にも腸骨や腓骨などを、血流を確保したまま採取し、移植します。

舌部

術後の摂食機能(食事)・構音機能(会話)の獲得を目的とした機能的な再建をします。リンパ節郭清術を行った場合は、口腔内と頸部をしっかりと遮断して、頸部への唾液の垂れ込みを予防する必要があります。小欠損は縫縮もしくは粘膜移植で再建しますが、舌半切除以上は皮弁による再建を行っています。有茎皮弁として、大胸筋皮弁・広背筋皮弁などがあり、遊離皮弁として、前腕皮弁・外側大腿皮弁・腹直筋皮弁などが多く用いられます。

頬粘膜・口腔底部

術後の摂食機能(食事)・構音機能(会話)の獲得を目的とした機能的な再建をします。リンパ節郭清術を行った場合は、口腔内と頸部をしっかりと遮断して、頸部への唾液の垂れ込みを予防する必要があります。小欠損は縫縮もしくは粘膜移植で再建しますが、広範囲の欠損では皮弁による再建を行っています。有茎皮弁として、頤皮弁・大胸筋皮弁・広背筋皮弁などがあり、遊離皮弁として、前腕皮弁・鼠経皮弁・外側大腿皮弁・腹直筋皮弁などが多く用いられます。

下顎部

術後の摂食機能(食事)・構音機能(会話)の獲得を目的とした機能的な再建をします。小欠損は有茎皮弁で再建しますが、下顎の腫瘍では粘膜,皮膚だけでなく,それを支える骨組織も再建しなくてはなりませ。下顎骨の再建に、自家骨(自分の骨)を用いる場合、骨の血流を確保したまま骨移植することが有利ですので、遊離腓骨皮弁、遊離腸骨皮弁が多く用いられます。骨弁としては他に肋骨,肩甲骨などがあります。骨の代用として、医療用人工材料を用いる場合、金属(多くはチタン)製プレートや人工骨(ハイドロキシアパタイトなど)を利用します。下顎骨周囲組織の欠損など、舌癌,口腔底癌といっしょに下顎骨が切除される場合もあり、上記皮弁と組み合わせて利用することがあります。

下咽頭頸部食道部

術後の摂食機能(食事)の獲得を目的とした機能的な再建をします。下咽頭癌や食道癌などでその部分を切除された場合は,消化管の形態を再建しなければ、食事がとれなくなってしまいます。喉頭を残せるような部分切除では、有茎皮弁として、頤皮弁・大胸筋皮弁・広背筋皮弁などが用いられますが、咽頭と食道を切除された場合には、遊離皮弁として、前腕皮弁・遊離空腸移植などが多く用いられます。

再建手術の問題点

1)再建手術の限界

再建手術の理想は,腫瘍とともに切除された組織と同じ組織を元通りに移植することです。しかしながら、頭頸部や口腔食道の組織は特異な組織や構造をもっていて、同じ組織は残念ながら存在しません。ですから、損なわれた組織になるべく近い組織を移植して、手術で切除されずに残った正常組織の機能を最大限に活用し、本来に近い外観や機能を獲得するのが現在行われている再建手術です。したがって、切除量に応じて外観や機能の障害が大きくなるという現状はありますが、一旦損なわれた外観や機能でも、術後のリハビリテーションと組み合わせて行うことで、機能回復が期待できます。

2)早期合併症

手術直後から3週間頃までに起こりうる状態を箇条書きにしてみます。

血管吻合部の血栓

遊離皮弁で再建手術を行う場合、直径1〜3mmの血管を、顕微鏡下に縫合して吻合しなくてはなりません。成功率は、ここ数年で97%程度ですが、3%程度(すなわち30例に1例)の確率で、血管吻合部に血の固まり(血栓)ができ、それより先に血液が通わない状態が発生します。血流がなければ、移植組識は生着できませんので、再手術を必要とする可能性があります。
ただし、早期に血流不良を発見し、血管吻合部の血栓を除去して再吻合できれば、回復できますので、手術直後から3日間程度は、昼夜を問わず、数時間毎に医師が移殖組識の血流を監視します。

皮弁の壊死・部分壊死

血行不良や感染が原因で、組織がダメージを受けて駄目になることをいいます。遊離皮弁では、血管吻合部の血栓による血行不良が多いのですが、有茎皮弁でも、血液を供給している血管の攣縮(何らかの刺激に反応して、縮んで締まってしまうこと)が原因で血行不良が起こり得ます。部分壊死とは、移植組織の一部に血流障害があって、一部がダメージを受けることです。

感染症

一般的に、長時間にわたる手術では、創部に感染(化膿)を起こす可能性が高くなります。特に頭頸部では、鼻腔や口腔に様々な細菌が生息していて、手術部位と隣接していますので、感染症を起こす可能性は高くなります。術後、創部に膿がたまった場合には、切開して排膿し、清潔な生理食塩水で洗浄すれば、多くの場合改善します。

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